§5 あとがき
兵器として考えた場合、No1を目指す必要があります
No2ではその性能差を量なり時間なりで補填が必要となり、人命が掛かっている戦場の場合では致命傷となりかねません。
工業技術全体が発達していた米国では、更に無線技術を軍事戦略として膨大な資金を投入し大きく進化させました
砲弾の中に電波反射による金属近接探知回路を載せて実用化までしています (VT信管と呼ばれています)
米国のように、回路に適した真空管を最適な方法で、精度の高い部品や信頼性の高い線材などを潤沢に使えた国とでは、どうしても性能差があったと思います。
旧陸軍は戦場でのメンテナンスを考え、回路を工夫し真空管を6F7の1種類とした無線機を作ったのではと考えています。
いろいろな問題点はあるにせよUt6F7だけでスーパーヘテロダイン受信機を作り上げた先輩技術者の方々には深く頭が下がります。
しかしながら日本ではこの飛5受信機は昭和14年当時、最高の性能だったと思います。
更に昔の方が今より遥かに人工ノイズは少ないし、無線局の数は無線局統制下でもあり比較になりません
その環境下なら、軍用無線機として十分な活躍が出来ていたのではと安易に想像できます
そして、飛5受信機は現在に於いても7MHzのAMやCWを聞くには十分な感度です。
昭和19年の飛5号受信機の目標生産台数は1,000台となっていますが、おそらく1/10も生産できなかったのではないかと思います。
これだけ手の込んだ物です、量産品ですから100余の部材一つ無くても完成しませんし、必要な部材が必要な時に集められなかったのではと予想しています、また腕の立つ職人さんの匠の技も飛5号受信機を組み立てるには必要です
更に、無線機を保守する人材が逼迫していたと本で読んだことがあります。
人材は一朝一夕で育ちません。
この無線機を調べて驚いた事は、半田付けの素晴らしさです。
70年以上経過しているにもかかわらず1箇所も半田不良がありません。
昔の半田ごては、ごついニクロム線が中に見えるタイプと思います。
今、我々は普通に温度管理されたコテを使っていますが、昔はありませんでした。
半田付の職人さんのすばらしさです。
もちろん米軍の機械のようなからげ配線などありませんので、本当に半田付の職人さんの凄さが感じられます。
(しかし米国は組み立て作業を徹底的に分析して、マニュアルに従えば誰でも作れるようにして量産したのはすごい技術です)
先人が苦労して作り上げたこの貴重な当時の戦時遺産を、大切に動態保存をしたいと思っています。
現在の無線技術は戦前からの先駆者から引き継いだ技術を基盤に、更に積み上げてきたものと考えています
人・金・モノの投入量の違いはありますが、戦前の日本でも無線技術の基礎研究はそれなりに進んでいました、その知見が戦後の電子立国のベースとなっています
我々が今、無線を楽しめるのも先輩方々の努力の賜物と思い感謝をしています。
改めて先人の偉大さに敬意を表したいとおもいます
私は真空管が好きで、送信機や受信機を何十台か趣味として製作して楽しんできました。
‘JA0BZC Amateur Radio Homebrew with vacuum tubes‘ と題して、制作内容をインタネットで公開しています
URLは下記となりますので、是非アクセスして見て下さい
真空管を使った製作と言えば、オーディオと思われがちですが、オーティオは受信機のほんの一部です。真空管本来の使い方をしてアマチュア無線を楽しみませんか!
最後に、この飛5の甦りにあたりお世話になりました
JA1BA,JA1HU,JR1KQU,JAOGWK
JH0WJF,各局にお礼申し上げます。
73´de JA0BZC
参考文献
真空管半代記 JA1FC 藤室衛
東京文献センター
真空管談義 JA1AYZ 有坂英雄 有朋社
魅惑の軍用無線機・第1巻 ㈱三才ブックス